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魂の衣 [日記]

 最近更新が滞りがちです。と言っても特に何か有ったというわけでもなく、順調にサイクルライフ満喫中なのですが、逆に言うと走ることに忙しすぎてまとまった文章を書く暇が無いと言った所でしょうか。

 今日の関東地方は最近の暖かさを一気に逆回ししたような寒さになりました。一応下に着込んだとはいえ外見は普段通りの半袖ジャージにレーパンで出勤していたら、いつも顔を合わせる交通整理の女性(いわゆるみどりのおばさん)に「寒くないですか?」「風邪ひかないでくださいね」と、心配される程。人に余計な心配をかけないためにも状況に合った服装をしておいたほうがよさそうです。

 で、今日はとある哲学書を読んだ感想を書こうと思います。自転車には全然関係ないので、興味のない方はココが読むのを止めるチャンスです。
 10年ほど前、週刊新潮に毎号1ページ、哲学の連載がされていました。「14歳からの哲学」で有名な池田晶子氏の連載で、毎回その鋭い視点に感心していたのですが、先日その連載を纏めた本を買いました。「41歳からの哲学」「勝っても負けても」「人間自身 考えることに終わりなく」の3冊です。実は「勝っても〜」と「考えること〜」の間にもう一冊あるそうですがAmazonで注文する時に見落としてました。今度買おう。

 本日「41歳からの哲学」を読了してみて思ったのは「やっぱり頭の良い人の書く文章は一味違う」という事ですが、これには「頭だけ良い人」という若干の揶揄も含まれます。とにかく頭が良くて思索するだけで結論が出てしまう人なので、世の中あらゆる事象に対する視線が怜悧で冷静です。しかし、その視座が少々固定的で視野も若干狭い印象を持つのも事実でして、生きることに執着が無い事を美学としているために現実の問題に対応するための知識を軽んじる傾向が見受けられます。特に生命保険に関する文章にそれが顕著に現れています。

 ところがこの怜悧な作者に冷静さを保てなくさせるのが愛犬の存在でして、愛というものの存在はいくら優秀な頭脳をもってしても克服できないようです。要するにツンデレなのです。

以下引用

 十五年間慈しんできた愛犬が死んでちょうど一年になる。
 もー悲しくて悲しくて、そのまま死んでしまうかと思った。無論今でも十分に悲しい。そこに当たると、涙がダーと出てきて止まらなくなるツボがある。心のなかのそのツボの位置を、それでもさすがにこの頃は心得てきた。普段はそこに触れないようにして心を動かすのだが、時折、今日は思い切り悲しもうというような日がある。そういう日は思い切りそこを刺激して思い切り涙を流す。これがじつに気持ちいいのである。悲しむということは、案外にいいものなのだということが、わかってきた。悲しみを楽しむというのか、そうこうするうちに、広い所に出られるようである。

 愛犬を亡くして、ペットロス症候群に陥る人は多いらしい。私はそのようには深刻ではなかったけれども、その気持はわからなくはない。後から来たのに先に往くというのは、そのことだけで十分に悲しい。しかも、その間、彼らは、あなたなしでは私はとても生きて行けないのでございますよ、馬鹿じゃないかというほどの忠誠を我々に尽くすのである。あの忠実さ、あの善良さ、そして情けなさ、これがもう犬好きにはタマラナイのである。

 「Dog suit」という言い方が、愛犬家にはよくウケる。犬とは、犬の衣を着た魂なのである。むろんのこと、人もそう。老いて疲れた犬の衣を脱ぎ捨てて、私の彼は今いずこ。幻影でもいい。いずれ幻影である。会いたいなあ。

以上引用終

 最後の「会いたいなあ」に著者の優しさ、愛の深さ、そして弱さが表れているような気がします。普段「墓に意味なんかない」とか「死に意味を見出すのは周りの人間であって死んだ本人ではない」とか言っていたのにこのツンデレめ。って感じです。

 この「41歳からの哲学」は「死に方上手」というタイトルで連載されていたものですが、「人間自身」と、タイトルが変わった後、連載が進む中で作者自身に死の影が忍び寄り、生と死が思索上の課題に留まらず、現実のものになるに連れて、その文章はもはや「頭だけがいい」等と揶揄するには失礼な程の凄みを帯びたものになって行きます。毅然として生と死に立ち向かった一人の哲学者の記録として実に価値あるシリーズだと思います。

 しかし、DogsuitがあるとすればCatsuitとかインコsuitとかもあるのかなあ。彼らの魂は何処を巡っているんだろう。会いたいなあ。
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maki

「涙がダーと出てきて止まらなくなるツボがある」
まさに。
時折、泣けて泣けてどうしようもなくなるのですよね・・
「41歳からの哲学」読んでみたくなりました。

by maki (2013-04-20 08:38) 

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